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ネジの外れた人を応援する、日本唯一のまちづくりを考える

マスコス代表取締役、株式会社益田工房の代表取締役会長として、アイデアとデザイン創作を基礎に益田のまちづくりを考えてきた洪昌督さん。市民が益田を良くする「当事者」になる仕組みを作りたい。その想いを元に始めたMASは、どんな未来予想図を描くのでしょうか?

 

 

「当事者」になる経験が地元の”見方”を変えてくれた。

 

僕は益田市須子町で生まれ育ち、益田高校に進んだあと上京し、映画学校で映画制作を学びながらアンダーグラウンドな音楽活動をしていましたが、28歳のとき家業を継ぐため益田に帰ってきました。
はじめの3年間は人事や財務といった仕事を覚えるのに必死でした。事業規模も大きかったので、家業がひと段落した頃、誰かの役に立っている実感を得たくて「益田工房」というデザイン事務所を小さな一角でスタートさせたんです。そこには、「人と繋がる」感覚が確かにありました。

 

益田工房が担当した島根県益田市の酒蔵、右田本店さんのパッケージデザイン

 

 

益田工房で地元企業とデザインの仕事をするようになって、今まで交流することがなかった職種や世代の方たちとのつながりが出来始めました。益田工房をしていなかったら、未だに益田のことを外に出て行った10代の頃のまま「何もないところだよ」と嘆いていたかもしれません。

 

人や町と触れ合って、輪の一員になって、益田を良い町に変えていきたいと自分の頭で考える。それが地元の”見方”が変わったきっかけでした。つまり自分が当事者になるということです。

 

そうした経験を重ね、再び大きな事業として駅前に新しいホテルを建設中なんです。各部屋に自転車を持ち込める土間を設けたり、益田の地場産業を取り入れたアメニティや浴衣のデザインなど、新たなライフスタイルを提案する計画です。

 

実は、MASで支援する作品と同じシリーズで、「めがねと旅する美術展」でも展示されている野村くんの作品を僕自身も購入しました。新しいホテルの展示スペースに設置する予定なんです。

 

 

ホテルに展示する作品「Noctis Labyrinthus No.07」

 

 

表現者の苦しみを知っているからこそできる発想

 

僕は在日韓国人という環境もあってか、周りに同じ境遇の人がいなかった分、学生時代から映画や音楽といった「表現」の世界の中でバランスを保ってきました。家業を継いだ今現在も、音楽活動を続けています。

 

表現者がまわりに多くいた環境に身を置いたものとして、作品を作り上げることの生みの苦しみはもちろん、この日本社会の中で芸術をやることの難しさも理解していると自負しています。

 

その社会の中で表現活動を”続ける”こと自体が尊いことだと思っているんです。すごくピュアな行動の結果だから。何かを表現して、新しいものを生み出そうとする。それをやろうとする人や文化を大切にしたいというか、地元益田でそういう人がいるんだったら、市民みんなで大切にすべきじゃないかと思っているんです。

 

 

洪さんが所属するレーベル「SUKO RECORDS」。ウェブサイト内で楽曲を聞ける。
http://sukorecords.com/

 

 

MASが支援するアーティストである野村くんは益田高校時代の同級生です。昔から知っている友人が表現活動を続けているなら、尚更応援したいと思ったんです。
かといって、誰でも良いというわけではなくて、野村くんの絵が嫌いならこういうことはしないと思います。彼の作品を見たときに素人なりにもすごく良いものを作っていると感じました。

 

 

ネジの外れた人を町ぐるみで応援する。そんな風土が育ったら日本で唯一の町になると思います。

 

「アーティスト」って一見するとネジの外れた人かもしれない。「そんな夢みたいなことを言っていて、食べていけるの?」って空気、いまだに根強くあると思うんです。

 

でも、少しくらいネジが外れているようなスケールがなくては出来ない仕事もあるし、社会を豊かにするにはそういう人間が必要だと思います。だからこそ、MASを通じて益田の中で「表現者」へ理解を示してくれる人を増やしたいんです。

そして市民ひとりひとりが益田を良くする「当事者」になってもらえる仕組みを作ったら、僕がかつて経験したようなパラダイム転換を共有できるんじゃないかと思ってMASプロジェクトを始めました。

 

このプロジェクトを通して「ネジの外れている人」を町が一体になって応援したいねっていう風土が生まれたら、こんな素晴らしい町、日本中探してもないんじゃないかなって思うんです。

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